健康一口アドバイス
放射線治療について
放射線科医長 高井 憲司
がんの治療の3本柱として、「手術」「化学療法」とともに「放射線治療」も挙げられます。一口に「がん」と言っても、その種類はたくさんあります。また、この3つの治療法はそれぞれに利点も欠点もあり、がん治療を受けられる患者さん個々に応じて、もっとも有益となるように使い分けられます。
さて、「放射線治療」は手術と同じ「局所療法」、つまり治療をした部分にだけ効果を発揮する方法です。しかし手術と比べて、治療する臓器の機能や形を残したままがん組織を抑えられる利点があります。例えば早期の喉頭がんでは、放射線治療単独で声を失うことなく高い割合で病巣を抑えることができます。一方、胃や大腸のように良く動く臓器のがんには不向き、放射線に対し反応しにくい種類のがん(腎臓がんなど)では効果が弱い、などの欠点もあり、これらのがんには手術が主流です。
食道がんやある程度進行した肺がんなどでは、放射線治療と化学療法を組み合わせる治療も行われています。また、早期の乳癌では、がんの部分だけを手術で取り去り、温存した乳房に放射線治療を行って再発を減らす治療が標準的に行われています。2つ以上の治療法を組み合わせる治療を「集学的治療」と言い、それぞれの長所を組み合わせています。
早期の肺がん(大きさ3cm以下で転移無し)などでは、多方向から一つの病巣に集中して大線量の放射線を照射しがんを抑える「定位放射線治療」も行われるようになっています。「切らずに治す治療法」の一環です。この治療装置は、医療界で普及している放射線治療装置を基本に造られており、最近話題になっている「重粒子線装置」など大がかりな装置は必要としません。
一方、骨の転移で痛みが出たような場合、症状を和らげる目的で放射線治療が行われる場合もしばしばあります。がん診療においては、「病気を治す」ことだけでなく、病状によっては症状を和らげてその患者さんが楽に生活できるようにする、と言った視点が重視されることもあります。放射線治療はその一環としても一役買っています。
がんの患者さんのうち、何らかの形で放射線治療を受ける方の割合は、わが国では約25%と言われていますが、アメリカでは約半数と言われています。わが国でも、放射線治療を受けるがん患者さんの数は、年々増えつつあります。
大半のがんは、頻度の差はあれ再発・転移の可能性も付きまとい、ある意味「付き合う病気」という側面もあります。「どのようながんでも治る王道」はなく、適切な対処法は状況により異なります。主治医の先生に質問をするなり話を聞くなりして、充分理解された上で治療をお受けになるのが良いでしょう。各病院の放射線治療科は、各診療科の先生方と連携してがんなどの診療を行っています。
2006年5月09日
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